夜中の3時に、赤ちゃんの泣き声で目が覚めます。抱き上げて、キッチンへ行って、電気ケトルのスイッチを押す。お湯が沸くまでの音を聞きながら、腕の中の赤ちゃんはずっと泣いています。
1人目のとき、わたしは1年、これを毎晩くり返していました。
「出産は若いほうがいい」と、昔から聞いていました。体が回復しやすいからだろう、くらいに思っていました。
本当の意味が分かったのは、この夜中でした。産むことより、産んだあとに毎晩起きる体力のことを言われていたんだと、腕に赤ちゃんを抱えたまま痛感しました。
先に書いておきます。わたしは完全母乳で育てるつもりでした。哺乳瓶も粉ミルクも、ほとんど用意していませんでした。
それでも、母乳が足りない夜は来ます。自分が熱を出して、それでも授乳しないといけない日も来ます。わたしはそのたびに、夜中のキッチンであわててミルクを作りました。
だから、完母でいくつもりの方にこそ読んでおいてほしい話です。「使わずに済めばそれでいい」という備えの話だと思って読んでください。
今日は、そのときのことを書きます。粉ミルクを作るお湯の話と、わたしが2人目の前に考えを変えた話です。
粉ミルクのお湯は、なぜ70度以上でないといけない?
母乳が足りない夜にミルクを足そうとして、はじめて知りました。粉ミルクは、70度以上のお湯で溶かさないといけません。
理由は、粉ミルクの粉そのものにあります。粉ミルクは完全な無菌ではなく、まれにサカザキ菌という細菌が入っていることがあります。赤ちゃんがこの菌に感染すると、重い症状になることがあります。
70度以上のお湯で溶かすと、この菌を殺せます。だから厚生労働省もWHOも、調乳には70度以上のお湯を使うことを指針にしています。
もし、ぬるいお湯で作ってしまったらどうなりますか…?
わたしも1回やりました。眠くて、ポットのお湯をそのまま使ってしまったんです。赤ちゃんは何ともありませんでしたが、次の日に小児科で聞いたら「1回なら過度に心配しなくていい。ただ習慣にはしないで」と言われました。
心配なときは、産院か小児科に電話して聞いてください。夜間でも相談できる窓口があります。わたしも一度かけました。
70度で溶かしたミルクを、どうやって飲ませる温度まで下げる?
ここが、いちばん大変なところです。70度で溶かしたミルクは、そのままでは熱すぎて飲ませられません。人肌、だいたい40度まで冷ます必要があります。
わたしがやっていたのは、哺乳瓶を流水に当てる方法でした。ボウルに水を張って、そこに立てておくこともありました。
これが、5分から10分かかります。赤ちゃんは、その間ずっと泣いています。
泣いてる赤ちゃんを待たせる10分って、長くないですか…?
長いです。しかも抱っこしながら片手で冷ますので、自分の腕もつらい。泣き声を聞きながら水の音を聞いている時間が、いちばん心が削られました。
湯冷ましを使うと、冷ます時間は短くなります
湯冷ましというのは、一度沸騰させてから冷ました水のことです。これを使うと、待つ時間を短くできます。
やり方は、先に少なめのお湯で粉を溶かして、残りを湯冷ましで足す方法です。
たとえば160mlのミルクなら、100mlのお湯で粉を溶かして、60mlの湯冷ましを足します。粉を溶かす段階で70度以上を守れていれば、あとから湯冷ましを足しても大丈夫です。
ただ、湯冷ましにも手間があります。あらかじめ沸かして、冷まして、清潔な容器に入れておく必要があります。わたしは夕方に作って、朝までに使い切るようにしていました。
作り置きは、その日のうちに使い切ってください。わたしは朝に前の日の湯冷ましを見つけて、そのまま流しに捨てていました。見た目もにおいも変わりませんが、常温に置いた水は時間がたつほど雑菌が増えます。作り直すのは1分です。
ミネラルウォーターを使うなら、硬度の低い軟水を選んでください。ミネラルの多い硬水は、赤ちゃんの腎臓に負担がかかります。ラベルに硬度が書いてあります。
冷まし方は、流水より氷水のほうが早く済みます
わたしは最初、流水に当てて冷ましていました。水道を出しっぱなしにするので、水道代も気になります。
途中から、ボウルに水と氷を入れて、そこに哺乳瓶を立てる方法に変えました。流水より早く、3分ほどで人肌まで下がります。
夏は保冷剤を凍らせておいて、ボウルの水に入れていました。夜中に製氷皿を開ける音で上の子が起きるので、静かに取り出せる保冷剤のほうが助かりました。
温度の確かめ方は、哺乳瓶を軽く振って、自分の手首の内側に1滴落とすだけです。熱いと感じなければ飲ませられます。温度計を使う日もありましたが、夜中は手首のほうが早いです。
いつまで70度で作るのか、うちはミルクを卒業するまででした
粉ミルクを使っているあいだは、ずっとです。生後すぐでも、生後10か月でも変わりません。粉そのものに菌が入っている可能性がある以上、溶かすときの温度は同じだけ必要になります。
月齢が上がると、飲む量が増えて作る回数は減ります。うちは離乳食が進んだ9か月ごろから、夜中のミルクが1回になりました。そこから先は、だいぶ楽になりました。
夜中に台所へ行かなくて済むように、わたしがやっていた工夫
毎晩キッチンに立つのがつらくて、いくつか試しました。参考になるものがあるかもしれないので、紹介しておきます。
魔法瓶に熱湯を入れて、枕元に置く
いちばん効いたのはこれでした。寝る前に沸かしたお湯を魔法瓶に入れて、寝室に持っていきます。夜中はその場でミルクを作れるので、キッチンまで歩かなくて済みます。
注意点があります。保温力の高い魔法瓶を選ばないと、朝方には70度を割ります。わたしは6時間後で80度を保てるものを使っていました。ふたを開けるたびに温度は下がるので、口の狭いタイプのほうが長持ちします。
ミルク用の水筒を持ち歩く
外出のときは、熱湯を入れた小さい水筒と、湯冷ましを入れたペットボトルを持って出ました。粉は1回分ずつのスティックか、小分けケースに入れておきます。
荷物は増えます。ただ、出先で「お湯をもらえますか」と聞いて回るより、ずっと気が楽でした。
液体ミルクを常備する
缶やパックに入っていて、そのまま飲ませられるミルクです。お湯も湯冷ましも要りません。
値段は粉ミルクより高くつきます。わたしは毎日は使わず、夜中にどうしても起き上がれない日と、災害に備えた買い置きとして置いていました。実際、1人目のときに熱を出した夜に助けられました。
全部やるとお金もかかるし、荷物も増えますね…?
そうなんです。だからわたしは1人目のとき、魔法瓶だけで1年乗り切りました。それでも足りなくて、2人目の前に考え方を変えました。
電気ポットでも足ります。違うのは冷ます時間だけでした
70度で保温できる電気ポットなら、お湯の用意はそれで済みます。わたしも1人目のときは、ポットと魔法瓶だけで1年やりました。
残るのは、冷ます時間です。ポットから出るお湯は70度以上あるので、人肌まで下げる3分から10分は、どうやっても必要になります。湯冷ましを使うなら、その湯冷ましを沸かして冷まして容器に入れておく手間も残ります。
だからわたしは、2人目のときだけウォーターサーバーを契約しました。ミルクを使う時期が終わったら解約するつもりで、短期間だけ借りています。
ウォーターサーバーで変わるのは、この部分だけです。冷水がそのまま出るので、溶かしたミルクに足せば、待たずに人肌になります。
| 電気ポット | ウォーターサーバー | |
|---|---|---|
| お湯 | すぐ出る | すぐ出る |
| 冷ます | 自分で3〜10分 | 冷水を足して10秒 |
| 湯冷まし | 作って管理する | 要らない |
| 電気代の目安 | 月500〜900円 | 月500〜1,000円 |
| 寝室に置けるか | 置ける | 卓上型なら置ける |
電気代はほとんど変わりません。差が出るのは、夜中に冷ます3分だけです。
ウォーターサーバーは大きいものだと思われがちですが、卓上型なら幅30cmほどです。寝室のチェストの上にも置けます。電源が必要なので、コンセントの位置だけ先に見ておいてください。
ただ、この3分を「たった3分」と書きたくありません。昼間の3分とは、まるで別ものだからです。
夜中の3時、体は動かしたくない、目はほとんど開いていない、腕の中では赤ちゃんが泣き続けている。その状態で立って待つ3分です。
しかも、寝る前の1回ではありません。一晩に2回も3回も起きて、それが毎晩、1年続きます。終わりが見えないなかで、眠れない自分を立たせておく時間の積み重ねが、体力を削っていきました。
1人目のとき、わたしがつらかったのは授乳そのものではありませんでした。泣き声を聞きながら、ただ待っているだけの時間です。何もできずに立っているあいだに、自分が母親として何かを間違えている気までしてきます。
そこまで違うんですね…。でも1年のために契約するのは、もったいない気もします。
わたしも1人目のときは、まったく同じことを考えて我慢しました。その結果、削れたのは自分の体でした。夜中に3分立っていられなくなって、2人目のときは迷わず契約しています。使う時期が終わったら解約するので、払うのは1年ぶんだけです。
ポットで足りる人と、そうでない人の分かれ目はここだと思います。
- 母乳が中心で、夜中にミルクを足すのが1日1回まで。上の子がいない。置き場所がない。→ ポットで足ります
- ミルク中心で夜中に2回も3回も作る。上の子がいて手が足りない。自分の体力が先に限界。→ 待つ時間をなくす価値があります
2人目の前に、お湯を沸かすのをやめました
1人目のとき、半年を過ぎたころには、体がもたなくなっていました。世話をする子はその子ひとりだけで、昼間は自分のペースで休めたのに、それでもです。
2人目のときは、上の子の世話が重なります。同じやり方では無理だと思いました。
そこで、家にウォーターサーバーを置きました。温水と冷水がそのまま出る機械です。
やることが変わりました。哺乳瓶に粉を入れて、温水を少し注いで溶かして、冷水を足す。これだけです。お湯を沸かす時間も、冷ます時間も要りません。作りはじめてから飲ませるまで、1分かかりません。
夜中に起きること自体は、2人目も変わりませんでした。変わったのは、起きてから布団に戻るまでの時間です。
ミルクのために台所へ行くことがなくなって、泣き声を聞きながら待つ時間も短くなりました。同じ回数起きていても、次の日に残る疲れがまるで違いました。
新生児に使うなら、どのウォーターサーバーでもいいわけではありません
選ぶときに確かめたことが3つあります。
- 温水が70度以上出るか。ほとんどの機種は80度から90度なので問題ありませんが、省エネモードだけの機種は温度が下がります。
- 水が軟水か。RO水(不純物を取り除いた水)か、硬度の低い天然水を選んでください。硬度の高い水は、赤ちゃんの体に負担がかかります。
- チャイルドロックが付いているか。上の子がいる家では必須です。わたしは温水側にロックがかかる機種にしました。
「ウォーターサーバーのミルクはだめ」と書かれているのを見たことがあります。あれは、硬度の高い水を使った場合の話です。軟水を選べば、調乳に使えます。心配なら、メーカーのサイトに「調乳に使えます」と書いてあるかどうかを確かめてください。
お金はどれくらいかかった?
わたしが使っていたサーバーは、水代とサーバー代をあわせて月に4,000円ほどでした。1日あたり130円くらいです。
1日3回夜中に起きるとして、待っていた時間は1か月で15時間ほどになります。その15時間を眠れるようになって、月4,000円です。
わたしには、むしろ安いと思えました。産後に削られるのは体力と睡眠で、そこを取り戻すのに4,000円で済むなら、出し惜しみする理由がありません。
ミルクを使う時期は、長くても1年から1年半です。契約するときは、解約金がいつまでかかるかを必ず確かめてください。2年しばりの機種だと、ミルクを卒業したあとも払い続けることになります。
わたしは、子どもが大きくなってからも料理と麦茶で使い続けているので、結果的に無駄にはなりませんでした。
夜中の授乳は、座る場所を先に決めておくと楽になります
お湯の話とは少しずれますが、これも1人目のときに知りたかったことです。
わたしは最初、ベッドに座って授乳していました。背中が丸まるので、10分もすると腰が痛くなります。首も下を向いたままです。
2人目のときは、授乳クッションと背もたれのある椅子を寝室に置きました。腕の下にクッションを入れると、赤ちゃんの重さが腕にかからなくなります。同じ10分でも、体の残り方がまるで違いました。
夜中の用意も、その椅子のそばにまとめました。お湯の入った魔法瓶、湯冷まし、粉ミルクのスティック、おむつ、ガーゼ。暗いなかで手を伸ばせば届く場所に置いてあると、赤ちゃんを抱いたまま探し回らずに済みます。
完全母乳のつもりでも、お湯の用意はしておいたほうがいい?
1人目のときの話です。生後2週間の夜中、赤ちゃんが飲んでも飲んでも泣きやみませんでした。母乳が足りていなかったのだと、あとから分かりました。
その夜、家にあったのは産院でもらった粉ミルクの試供品ひとつだけでした。哺乳瓶を消毒していなかったので、鍋にお湯を沸かすところから始めています。赤ちゃんを泣かせたまま、台所で30分かかりました。
だから、完母の予定でも哺乳瓶と粉ミルクだけは家に置いておくことをおすすめします。使わなければそれでいいですし、使う日が来たときに、夜中のコンビニへ走らなくて済みます。
ミルクを足すと、母乳が出なくなったりしませんか?
助産師さんには「足りない夜だけ足すぶんには問題ない」と言われました。むしろ、お母さんが眠れないほうが母乳は出なくなります。わたしは2人目のとき、夜だけミルクにして、昼は母乳でした。
夜中の授乳は、いつまで続きました?
うちの場合は、2人とも1歳くらいまで夜中に起きていました。数か月で終わると思っていたので、その見通しの甘さが、1人目のときのつらさにつながったのだと思います。
でも、授乳が終わっても夜泣きが待っています。うちの場合は2歳くらいまでありました。
だから、いま妊娠中の方には先に言っておきます。夜中に起きる生活は、数日ではなく、2年続くものとして準備してください。
ミルクを作る手間を減らす工夫は、1回あたりは小さな差です。それでも、1年ぶんを積み上げると、眠れた時間がまるで違ってきます。
出産のお金の準備と、産後の暮らしの準備は分けて考える
出産の1年前に仕事を辞めていたので、わたしは夫の収入だけで産みました。そのぶん、出産にかかるお金は事前にきっちり調べています。
調べてみて分かったのは、出産そのものには出産育児一時金の50万円があって、帝王切開なら医療保険も下りるということでした。産む前に思っていたほど、出産費用でお金は減りませんでした。
減ったのは、むしろ産んだあとです。ミルク、おむつ、哺乳瓶、消毒、サーバー。少しずつ出ていきます。
だから産む前に、出産にいくらかかるのかを先に確かめてしまって、残ったお金を産後の暮らしに回せるようにしておいてください。産院ごとの費用は、厚生労働省が公表している請求データで調べられます。
わたしが、1人目のときに知っておきたかったこと
最後に、自分に手紙を書くつもりで3つ残します。
- お湯は前もって用意しておく。夜中に沸かすのではなく、寝る前に魔法瓶へ。これだけで、キッチンまで歩く回数がなくなります。
- 湯冷ましも一緒に用意しておく。冷ます時間が短くなるので、泣いている時間も短くなります。
- つらいと思ったら、道具にお金を使っていい。わたしは1人目のとき、我慢することを選びました。2人目で考えを変えて、心が本当に楽になりました。
夜中の授乳は、いま大変な人にしか分からない大変さです。お湯を沸かす3分が、あんなに長いとは思いませんでした。
これから子育てが待っている妊婦さんに、わたしの話が少しでも役に立てばうれしいです。
産後の暮らしにお金を残せるかどうかは、出産にいくら払うかで変わります。産院ごとの費用は公表されています。
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